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createFumio Hamaya

RENAISSA(ルネッサ)

 2007年に開催された東京モーターショーのヤマハブースに、1台の興味深いバイクが飾られていた。名をXV-V1 Sakuraという参考出品車。名の通り桜色をした、流れるように美しい造形は、ヤマハが1970年に発売した自身最初の4ストロークモデル、XS-1へのオマージュを感じながら随所に新しさもあった。空冷エンジンは、XS-1と同じ2気筒でもパラツインではなく、Vツイン。

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 そのエンジンはフィンも含めて流麗なカタチをしていた。若かりし頃に1980年代はじめに発売されたXV750スペシャル、XV750Eの空冷Vツインエンジンを最初に見た時に「うへぇ、美しくてグラマーでキレイなエンジンだなぁ」という感想を持ったことを思い出した。昔からヤマハはエンジンまでカッコ良い。その伝統がこの参考出品車にもあった。「発売してほしい」という声をまわりから聞いたけれど、結局今のところまだ出てきていないのは残念。

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 そんな感想とは別に、このSakuraからもう1台のバイクを連想していた。それが今回紹介するルネッサだ。そうそうこれからの季節、女性には必需品のね────それはアネッサ。ほら、最近あまりTVで見かけないけどワイングラスで乾杯して────それは「ルネッサ〜ンス!」......。さてと、ひとりノリツッコミはこのへんにして、Sakuraとルネッサは同じ空冷Vツインエンジンであり大きさは違うが全体のスタイルなどどことなく似ているなと思った。

 ルネッサを語る前に、この場に登場しなければならないのは、ベースとなったSRV250。ヤングな人は分からないだろうが1990年代初頭にSRブームがあったのを覚えているだろうか。

 SRをカスタムして乗るのが流行った。それは、古い英国車風のクラシックレーサーテイスト。そしてシングルレースへの感心と人気の高まりから、同時に足まわりやエンジンを高性能化する波もあった。トラッカーカスタムがもてはやされるのは少し後だ。

 この動きを察知したヤマハは、250クラスにもSRのような存在が欲しくなったのだと思う。実は1980年にSR250という、そのものズバリな名前のバイクが発売されていたけれど、空冷シングルエンジンは良いとしても、フロント19インチ、リア16インチにティアドロップタンクのアメリカンだった。英国車テイストとは程遠い。

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 SRV250に使われたのはシングルではなくVツイン。このエンジンはアメリカンのXV250ビラーゴのものを下敷きにしたもの。XV1600のエンジンを使ってロードスポーツのMT-01を作ったのと同じレシピ。でも、よく考えてみれば、昔はロードスポーツモデルとアメリカンでエンジンを共有するのは当たり前のことだったっけ。

 前後ワイヤースポークホイールにNortonを彷彿されるフェザーベッドフレームを採用しながら、燃料タンクなどが少し野暮ったかったのは、いかにも「どうぞ楽しくカスタムしてください」と言わんばかりのネオクラシック的なルックスだった。SRVと同時期にスズキからGoose350/250が登場したことからも、クラシックだけでなく、レーサーレプリカ時代とは違うアイテムを使ってのレースやスポーツ性への感心が高まっていたことが伺える。通常モデルに加えて、リザーバータンク付のリアショックに小さなメーターバイザーを備えたSRV250Sという、ほんの気持ちだけスポーツバージョンが用意されたことからも、市場背景が判るだろう。

 SRVは街でもそこそこ見かけたので、そこそこは売れたと思う。250クラスでこういうクラシック風テイストバイクの始まりは、1983年に発売されたホンダのGB250クラブマンで間違いない。それまで、全てにおいて進化することしか眼中になかった日本メーカーが、初めて後ろを振り返った。ここで昔を懐かしむ、レトロという概念が入ってきたのだ。

 このジャンルは、もう一つの側面があって、それはマルチエンジンと違って細い車体で、乗りやすく、かつ最新技術満載のモデルに比べ安価だということ。日常で実用的に使いやすいお手軽バイクとしても重宝された。SRVと同じ1992年に発売されたカワサキのエストレヤ、1994年にスズキから出たVOLTYは仲間。

 ネットだから文字制限がないので、重たい飛行機がなかなか離陸しないように前置きが長くなったけど、やっとルネッサのお話。発売は1996年。フレームやエンジンは基本SRV250のまま、外装だけちょっと色気のある、よりスタイリッシュなものに載せ替えた。これだけで、東北でベコと一緒に過ごした田舎娘のようなSRVが、そのルーツを隠して「代官山生まれです」と言わんばかりにアカ抜けたんだから面白い。しかし時代のトレンドはここにはなかった。翌年には10種類から選べるカラーオーダーを始めたけれど、ぱっとせず。結果、短命に終わった。ちなみに排気量は違うが、同じような僕達の失敗に1995年に発売されたホンダVRXロードスターがある。

 短命ゆえ記憶にあまり残らなかったこのルネッサだけど、21世紀に入って、渋谷、原宿、表参道、青山という、いわゆるオシャレ泥棒が生息する地域の路上に置かれていたり、若者が乗っているのをよく見かけるようになった。

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 カフェレーサー風のクラシックスタイルに、トコトコと乗りやすく味のあるVツインエンジン。人気がなかったから中古車の価格も安く、手に入れやすい。オシャレに敏感ながら、お金がないという若者の、移動手段としてだけでなく、自己主張もできるという絶好のバイクとして選ばれたのだろう。若者文化を考察するようになったら、それはオッサンだという証拠なんだけど、私の目には、それが面白く写った。

ルネッサは日本車独特の体臭のようなものが薄い、稀有な隠れた良バイクである。今になってそれがしみじみと理解できるようになったまさに出るタイミングを間違った系のモデル。250ccロードスポーツがまた注目を集めているが、現行モデルにこういう魅力を持ったバイクはない。

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