2014.01.20
BMW R1200GS ~最新バイクインプレッション~

createMasayuki Miyazaki
camera_altKen Takayanagi
結論。新型も、やっぱり並外れたオールラウンドバイクだった。以上。
......と書いて原稿を終わらせたくなるくらい、弱点が見当たらないのには参った。「いくらなんでも欲張りすぎだろ」と言いたくなるけど、ひとたび走らせてしまえばそのイチャモンは全部、不具な自分に跳ね返ってくる。そうなると、うつむいて黙るしかない。新しいGSはいろんなものを持っていて、非の打ちどころなくパーフェクトで、そして、乗り手である"あなた"はそれに応える技量を持っているか? と常に問われているようで......。
さて、話をスタートに戻そう。
エンジンを筆頭に全面的に刷新された新しいR1200GSは、部分的に水冷化されたとはいえ、まだまだ空冷がエンジンを冷やす仕事の半分以上を受け持っている。その新設計エンジンに注目すると、シリンダーヘッドの変更が著しい。インテークからエグゾーストへの流れが、これまでのシリンダーの後方から前方にではなく、上方から下方へと変わった。
GSのプロジェクトリーダーであるアントニウス・ルーエは、「オリジナルデザインを守り続けて30年経つが、とうとうフラットツインエンジンに熱的限界が訪れた」と語ったという。そのことを受けて、ついに新しいエンジンレイアウトを新型で具現してみせた。
1169.7ccの排気量自体は変わらないDOHC 4バルブエンジンだが、各部のリファインでパワーさらに15馬力上積みされ、7700回転で125馬力を発揮するまでに。この15馬力、たった15馬力と思わないでほしい。それはどんなスキルのライダーでもすぐに実感できるほど明確なパワーアップなのだから。
スロットルひとひねりでカラダが後ろに持っていかれた......というバイク雑誌の紋切り型も、今回ばかりはあえて使いたい。「そうは言ってもこの巨体でしょ」と事前に高をくくっていた著者は乱暴にスロットルを開け、そのパワフルさに思わずのけ反ってしまった。ブーンと回らずにビャーン! と回る。それはまるでスーパースポーツようで、こんなにパワーなくてもいいだろう、と思ったのは乗りはじめてすぐの正直な感想。慣れの問題と流すのは簡単だけど、免許は確実に危うくなる方向だ。旧型までが持っていた"ノンビリ走っても楽しい"ある種の鷹揚さは、ここにはもうないなと思った。
しかしそんなノスタルジーも、全体から見れば些細なことなのかもしれない。エンジン特性をはじめ、サスペンションセッティング、トラクションコントロール、ABSなどをつかさどる電子デバイスの完成度も高く、セミアクティブサスペンションの「こんなオンロード寄りのタイヤでここまでイケるの!?」というダートでのしっかりしたトラクションや、「どんなスピードレンジでも何も起きない」フラットな乗り心地にまず目を見張る。加えて日本車に後れをとっていたABSのマナーなど、それぞれの機械的進化にも文句のつけようがない。2014年の現時点でのベストパフォーマンスと言い切れる。しかもその存在をまったく感じさせないのだからため息がでる。
もしあなたがいままでにフラットツインのバイクに乗ったことがなくて、この新型GSがはじめての経験だとすれば、この古臭いエンジン形式への牧歌的な先入観は完全に裏切られるだろう。4気筒なんて要らないとさえ思うかもしれない。
まるでスイス製の高級クロノグラフのようなバイクだな、というのが新しいGSの強い印象だった。表現が陳腐だって? でもいちばん当てはまる喩えなんだよね。頭抜けた高機能も、ルックスも、神話性も、ぜんぶパーフェクトに備えている。必要か必要じゃないかなんてどうでもいい。"すべて持っている"ことが大切なのだよ、と言わんばかり。......って、この考え方も、どこか王者を仰ぐ下から目線なのかも(笑)。
フロント

旧型はスクリーン左右両端のノブをゆるめて高さ調節をしたが、新型ではメーターの右上に置かれたダイヤルひとつで可能になった。乗車したまま信号待ちなどでクルクルと回してハイ/ローの切り替えができるので便利この上ない。またけっして広くない面積ながら、高速走行時でハイにしたときの整流効果の高さにも驚かされる。"逆C"の光のラインが新しい意匠となる常時点灯のLEDヘッドライトと、シュラウドの中に納まるラジエーターが目新しい。ただし全体として、旧型との印象の差はさほど大きくはない。
エンジン

"フラットツイン"というエンジン形式だけ言えばこれまでのGSと変わらないものの、中身は完全に新設計されたエンジンを筆頭に、全面的に刷新された新しいR1200GS。パッと見で旧型とどこが変わったか言える人は相当のGSマニアか、もしくは新型GSが欲しくて欲しくてたまらないGSオーナー予備軍に違いない。かなりの注意力をもって観察していないと、どこが変わったかをにわかに指摘するのはむずかしいだろう。そのくらいルックスは旧型に似ているが、パワーやフィールはかなりスポーティに変化した。
シート

疲れ知らずの高いクッション性はBMW全車に共通の美点。「ロングがこなせないバイクはバイクに非ず」と言わんばかりの出色のシートだ。前席のハイ/ロー切り替え(20mm)、後席の前後スライド(20mm)が少ないアクションで簡単に行えるので、好みと走りのシチュエーションで積極的にセットアップしたい。試乗車はノーマル比60mmダウンのローシート仕様(シート、サス共に30mmダウン)で、巨体を操る不安を和らげてくれる。でもこの不安感≒威圧感は、このバイクの個性の大事な一部分でもある。
走り

乗ってすぐにわかるパワーとトルクの著しい増加。パワーモードは「ロード」にもかかわらず、スロットルオンの動作に遅れることなく大柄な車体をドバーッ! っと豪快に加速させる。スポーティになったと思う反面、ちょっとやりすぎでは? と思ったのが正直なところ。パワーがあることにケチをつけるのかと言う向きもあるかもしれないが、こちらが事前に想像していた"大陸的なキャラ"とは違うと感じた。もちろん制御不能というわけではまったくないので、そこが憎らしいというかカンペキというか。
スペック
BMW R1200GS

全長/全幅/全高 | 2205mm/935mm/1490mm |
---|---|
ホイールベース | 1550mm |
シート高 | 810mm |
装備重量 | 245kg |
タイヤ | (F)120/70-19 (R)170/60-17 |
タンク容量 | 20L |
排気量 | 1169cc |
エンジン | 水冷4ストローク水平対向2気筒DOHC4バルブ |
最高出力 | 125PS/7750rpm |
最大トルク | 12.8kgfm/6500rpm |
価格 | ¥2,199,000(ローダウン仕様は21000円アップ) |