ヤマハ T-MAX530 ~最新バイクインプレッション~

ヤマハ T-MAX530 ~最新バイクインプレッション~

createMasayuki Miyazaki
camera_altKen Takayanagi
check_circleJunichi Yasumuro

 ヤマハはこのTMAX530を、「ビッグスクーターではありません。スポーツバイクです」と拳を強くかためて主張する。見た目は(やっぱり)ビッグスクーター、でも中身は(しっかり)スポーツバイク......ってことですよね? と、初代と変わらぬ基本コンセプトをちょっと懐かしく思い出す。あれから10年以上が経ったいま、目の前にその新型が停まっている。デザインだけで言えば初代よりもさらにスクーターっぽい。正直言うと、そのことが試乗前の期待値を引き下げた。万能ツールみたいに八方美人に成り下がっていたらヤダな、と。
 けっこう高くて幅のあるシートをよいしょと跨ぎ、左右のレバーを強く握りしめてエンジンスタート。スロットルを静かに開けて発進の様子を見る。排気音はものすごく静かだ。がっちり効くブレーキを放しながら交差点に進入、クルリと向きを変えてこんどは少しだけ大きくスロットルを開けて加速してみた。......あれれ、思わずニンマリしちゃったよ。ああ、気持ちがいいバイクなのは相変わらずだ。

 初代の国内デビューは2001年、それから11年が経った2012年にこの四代目は発売された。初代、二代目、三代目とつづいた499ccの排気量は四代目で530ccにわずか拡大され、発売当初は海外仕様のみだったが、翌2013年には晴れて国内仕様が登場。今回は売れ筋とおぼしき国内仕様のABS装着モデルに試乗することができた。
 あくまで"スポーツ"を標榜するTMAX。その特徴をかいつまんで説明すると、一般のスクーターはエンジンユニットがスイングアームと一体化した「ユニットスイング式」を採用しているのに対して、TMAXはエンジンをアルミ製ダイアモンドフレームに直にマウントする。これは初代より変わらず。さらにリヤサスペンションは独立タイプの「スイングアーム式」とし、そのすぐ左側に動力を伝えるベルト(三代目まではチェーン駆動)を内蔵している。
 これらのアイデアによって、多数派のユニットスイング式に比べてバネ下重量を軽減することができ、また、他のコンフォート系ビッグスクーターよりも、高速走行時の操安性やハンドリングを秀でさせることに成功している。  さらに新型では新設計のCVTによりトルクの立ち上がりと変速特性を最適化し、発進加速や加速特性を向上させている。あとでもう少し詳しく説明するが、これがTMAXをTMAX足らしめている大きな理由になる。

 そんなTMAXとの初対面の印象は、意外に無愛想というか(文字通り)敷居が高かった。最大の違和感はそのポジションである。ひとたび跨ると、ハンドルグリップ位置は低くかつ手前なので上半身が直立ぎみになり、また、左右に大きく張り出したアルミフレームのせいで足着きも芳しくない。ロードスポーツの抱え込むような姿勢に慣れていると、高い跳び箱の上に座らされているようでなんだか心許ないし、ガードを下げたファイティング・ポーズのようでもある。でもこれ、剛性バランスを最適化するために不可欠なダイアモンドフレームの採用 → 操安性の向上、という第一義があるので避けて通ることはできない。でも大丈夫。大方のライダーはきっとすぐに慣れるだろうし、筆者もすぐに馴染むことができた。

 ポジションに慣れたあとはもう、めいっぱい走らせるだけだ。交通量の多い一般道、空いたハイウェイ、ドライコンディションのワインディングロード......キモチを前のめりにして走らせたTMAXは、そんないくつものシチュエーションを、それはもうビュンビュンと元気に走り回った。速いぞ!楽しいぞ! 八方美人はイヤと最初に言ったけれど、走りにかぎって言えば、そのオールラウンダーぶりに短所はほとんどない。
 なんといってもパワー特性が気分よし。スロットルを開ければ即座にパワーの盛り上がりを感じることができる。オンと同時にエンジンはすぐさま4000~6000回転台を目指し、ピークパワー&トルクを発生し続けよう静かに力みまくる。TMAXくんは鼻息がとても荒いのだ!

 そう。TMAXの最大のキャラクターは、スクーターのパワーユニットとしては異例とも言える「高回転キープ」のパワー特性だ。高速じゃないと高回転にならない仕組みである大半のスクーターとは一線を画し、たとえそれが低速走行中でも、スロットルオンでビャン! と一気にタコメーターの針が右に振れる。このレスポンスがなんとも気持ちいい。ライダーの興奮に寄り添う"無段変速の快感"をもっとも洗練させた乗り物の頂点にいま、TMAXがいると言ってもおおげさじゃない。

 そもそもビッグスクーターの気持ちよさを原稿で伝えようと思ったときに、しばしば当たる壁がある。「軟らかいハーネスで引っ張られるような」独特の加速感を、どう言い表すかだ。この感覚をどんな言葉に置き換えればいいのか。TMAXの場合はさらに"骨太さ"と"筋肉質"もプラスされるのだからややこしい。引き合いに出せるサンプルもほとんど見当たらない。

 頼もしい裏方としてはABSの存在がある。YZF-R1とさほど変わらないウェイトの重量物を、いかにスムーズかつ正確に減速できるか──減速とひとくちに言うけれど、細やかなスピード調節ほどむずかしいものはない。ミドルやリッタークラスの高出力スーパースポーツを乗りこなせるか、乗りこなせないかは、ほとんどここがポイントと言っていい。そこをしっかりと陰で支えてくれる躾けのいいABSは、絶対に加えたい装備だ。

 はてさて、ここまであれこれ言っても、あなたはこう素っ気なく返すかもしれない。
「でも所詮、ラクチンなGTスクーターでしょ」
 種々のミッション付きスポーツバイクをあらゆるジャンルと排気量で楽しんできた豊富な"経験"が、ベテランライダーのあなたにはあるのでしょう。でもはっきり言うと、あなたのその経験こそが邪魔。食わず嫌いという理由だけでこれまでビッグスクーターという乗り物を遠ざけていたとすれば、それはすごく勿体ない。
 大排気量車のパワフルすぎて使えない高回転にストレスを感じるよりも、ポテンシャルをぜんぶ使い切ることができて清々しい小排気量車......とはしばしばバイク雑誌で用いられる慣用句。そんな表現にはほぼ「そんな快感の最中でも、実際のスピードはたいしたことがないのがステキ」という文言が付いてくる。しかし"使い切れる"新型TMAXに関しては、まったくそんなことはないのでご注意を。530ccツインでマックス180km/hはダテじゃない。すぐに免許が無くなりますよ!

ヘッドライトまわり

ヤマハ T-MAX530 ~最新バイクインプレッション~(1)

凛々しいけれど、いささか個性を失ってしまったフェイスまわりの意匠。ただしワインディングでバックミラーに映るこの顔はまるでスーパースポーツのそれとそっくりで、思わず身が引き締まる?実際、アベレージスピードもかなりのものなので、たとえ抜かれてもけっして自分を責めないこと(笑)。上下サブリフレクター付きのヘッドライトは、ムラの少ない良好な配光特性を実現している。

メーター

ヤマハ T-MAX530 ~最新バイクインプレッション~(2)

いまどきのビッグスクーターと比べればずっとシンプルなメーターデザイン。装飾過多に陥りたくないという意図が読み取れるし、なにより機能になんの不足もない点に好感がもてる。アナログの速度計と回転計を左右メインに、中央には残量計、燃費計、外気温計などを表示するマルチファンクションディスプレイを配置。盗難抑止のためのイモビライザーも標準装備する。

後輪まわり

ヤマハ T-MAX530 ~最新バイクインプレッション~(3)

バネ下重量を軽減するための軽量な5本スポーク/15インチアルミキャストホイールを前後に装備。フロントのダブルディスクとともに、リアには大径282mmのシングルディスクブレーキを備え、さらにオプションのABSを加えればスムーズで安全な制動を得ることができる。出色の完成度を誇るこのABSはぜひとも装着したいところだ。ちなみにリアのブレーキロックは別系統の機械式である。

足つき

ヤマハ T-MAX530 ~最新バイクインプレッション~(4)

モデルの身長は172cm。足着きはけっしていい部類ではないものの、両脚との干渉を上手に避けた造形(左右のえぐれ)のおかげで、ベタ着きでなくてもそれほど心許なさはない。大きく高く見えるボディデザインながら、車体幅の実寸は意外にタイトなのですり抜けはけっして不得手じゃない。前後長がゆったりとられたブーメラン型グラブバーの使い勝手も良好で実用的。

走り

ヤマハ T-MAX530 ~最新バイクインプレッション~(5)

古今東西、あらゆる乗り物のなかでこれほど"スムーズネス命"な加速と減速、コーナリングを味わえるビークルは少ない。オートマチックであること、イージーであることがどれほどの自由をライダーに与えてくれることか──。その簡便さを否定するライダーの多くは、じつは、その魔法にかかってしまうのが怖いと直感的に感じているのかもしれない。そう、ひとたびその安楽さを知ってしまうと......。

スペック

YAMAHA TMAX530 ABS

ヤマハ T-MAX530 ~最新バイクインプレッション~(6)
サイズ全長2200mm/全幅775mm/全高1425mm
ホイールベース1580mm
シート高800mm
半乾燥重量221kg
タイヤ(F)120/70-15 (R)160/60-15
タンク容量15ℓ
エンジン530cc水冷4ストローク直列2気筒DOHC4バルブ
最高出力48PS/6750rpm
最大トルク5.4kgfm/5250rpm
価格¥1,047,600(ABS装着モデル/ホワイト)

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