2013.09.20
ホンダ CBR250R ~最新バイクインプレッション~

createFumio Hamaya
camera_altKen Takayanagi
CBR250Rが発売されたのは2010年11月だから、早いもので登場してから2年半近くが経った。最近は街でも元気よく走っている姿をよく目にする。乗っている人を覗きこむように観察すると、若い人からそうでない人まで幅広い。このオートバイの魅力はいろいろあるけれど、それを乗った印象と共に考えてみたいと思う。
もちろん、二輪誌で仕事をしているライターとして、これまでも何度か乗ったことがある。久しぶりにちゃんとした対面をすると、初めて出会った時と印象が少し違っていた。このミレニアムレッドはいい色だ。写真より実際は明るく、少し朱色に近づいた発色の良いレッド。登場した時は、デザインのモチーフがこれより先に出ていたVFR1200Fと似たところがあり、塗り分けも似たツートーン。単気筒エンジンの250で、価格も比較的安いという事実をコンプレックスに思ったか、背伸びをして高級感を出そうとした意図が伝わってきた。少々気負い過ぎていた。
このソリッドカラーの赤は、その気負いが取れて肩の力が抜けた感じがする。フロントまわりの凝った造形など、まったく変わっていないけれど、「おっ、なんだかイイネ!」と無意識に口から出た。軽二輪クラスの身の丈にあった、カジュアルなオシャレさんになった感じだ。ふ菓子のように軽いことを言っているな、と思った人は一度見るといい。身近にいてあまり意識しなかった女性が、ちょっとしたイメチェンをして、思わずドキっとしたみたいな感じ。ホントにこのカラーはCBRによく似合っている。
搭載する水冷DOHC4バルブ単気筒エンジンは、最高出力27ps/8500rpm。小林旭の『昔の名前で出ています』が歌える昭和からオートバイに乗っている人は、はっきり言って物足りなく思える数値。80年代にあった18000回転からレッドゾーンが始まる45psの並列4気筒エンジンを積んだCBR250Rとの同じ名前だからいろんなところで話題になってしまう。しかし250同士でも、そもそも時代だけでなく成り立ちやポジションがまったく違うもの。比べたり、憂いたりしても詮無いことだ。私も昔のCBR250Rを知っている世代だから思ってしまうが、4気筒じゃない、とか不満を言っている層は、はじめからこのCBR250Rのユーザーにならない人たちに違いない。
ちょっと前まで軽二輪クラスはスクーターの天下だった。90年代後半からビッグスクーター盛り上がって反比例でカウル付ロードスポーツは衰退していった。その時のカウル付250は60万円以上。スクーターは40万円台後半と安価。跨り系、いわゆる普通のオートバイを趣味として楽しむ人は大型免許を取りやすくなったこともあり、もっと上の排気量に移った。それでも自動二輪車免許保持者のボリュームゾーンは普通免許帯に変わりはない。そこにいる人が、オートバイじゃなくスクーターを選んだのは、若者を中心とした時代のライフスタイルに合った新しい乗り物ということと利便性。ギアチェンジなしにスロットルを絞るだけで楽に乗れて、後ろに若い女子を乗せても立派なシートで座り心地が良いからブーブー文句も出ないし、彼女がお店で買った物が雨の心配なく収まるトランクまで付いている。それでいて安い(ブーム初期は)。使うとその便利さに手放せない魔力があるのだ。
そんなこんなでビッグスクーターは、カウル付ロードスポーツどころかネイキッドモデルさえ衰退させた。ところが、ビッグスクーターは豪華さや走りの性能アップを求めて価格は上がっていき、気軽に乗れる足バイクから遠ざかっていく。そして流行の反動がきた。一方では憧れて大型モデルを買ったが、大きく重く、パワーありすぎて、自然とシートカバーを取る機会が少なってしまった趣味で楽しむ人達がいた。運転技量や体格的に大きいのは敬遠して、車検のない250で気軽なギア付ロードスポーツの新車が欲しいが、候補になりそうなものは絶版中古車ばかりで、買うものがなく困っている入り口付近の人もいた。若いころに乗っていて1度降りたけれど、子供も大きくなったし久しぶりに乗りたくなった。でもいきなり大型はないよな、という人もいた。
長々と書いてきたけれどCBR250Rはこの受け皿だ。ギアチェンジしながらコーナーを走り抜けるのはオートバイに乗る楽しみとして不変。極端な表現をするとスクーターは「楽しく使うもの」。オートバイは「乗ることを楽しむもの」。同じ移動に使える道具だけど根源が違う。手に入りやすい価格というのが大きなミソ。速さを求めて進化しすぎたレーサーレプリカとは違う。これを理解せずにやいのやいのと野次を飛ばすのは外野。メーカー希望小売価格もABSなしで44万9,400円とビッグスクーター流行以前にあったものより格段に安い。高スペックを求めて装備を豪華にしていくと、いくらタイホンダ生産とはいえ、価格は上昇してしまうだろう。ビギナーには楽しみながら二輪車を知る教科書になり、リターンな人は「そうそうこういう乗り方をすればよかったんだよね」と思い出させ、ベテランの遊び道具にもなる。CBR250Rはそういうちょうどいいオートバイなのだ。
フレーム&足まわり

スチールフレームや足まわりは豪華ではない。でも、これがエンジン出力に見合ったいい仕事をする。前後のサスペンションは良好に動く。単気筒の軽量さを最大限に活かしたグイグイ曲がる激シャープなハンドリング、というより意外としっとりと落ち着いたもの。どのオートバイから乗り換えても違和感がないだろう。そこそこペースを上げ深いバンクでコーナーリングしても急な特性変化はなく安定している。ブレーキの効きとタッチも充分。はっきり言ってスポーツ走りするのが楽しい。間違いなく経験を重ねたライダーでも面白く遊べるだろう。
エンジン

新開発された水冷単気筒エンジンは、極低速はほどほどのトルクでスロットル操作によってギクシャクしない快適さ。そこから右手をひねれば軽くフケ上がり中速域からさらにパワーに厚みが出てトップエンドまで気持よく伸びる。滑らかながら多気筒と違い、タッタッタッと単気筒ならではの、ひとつひとつの爆発で前に進ませている感じが判る。もの凄く速くはないけれど、交通の流れの中で不満を持つほど遅くはない。
足つき

シート高780mmでシート前方は適度に絞られているので、身長170cmでの足つきは良好そのもの。車体が軽いこともあって、わざと片方だけの足で爪先接地、バレエ用語でいうポアントをしてみても怖くなく支えられる。バレエなんてやったことはないけどね。セパレートハンドルでも体は1000ccクラスのスーパースポーツモデルのような前傾にならない。グリップ位置はシート座面に対し高めで、下方向へ少しのタレと手前のシボリがきっちりあって近すぎず遠すぎず。ゆるやかな前傾の楽ちんポジション。平均的な体型の日本人男性だったらまず問題はない。
走り

誰でも街やワインディングでスポーツバイクらしいライディング・プレジャーが味わえる設定。もし物足りないと思うなら上のクラスに行けばいいだけだ。住み分けがきっちり出来ている。燃費は無理せず30km/L以上を記録するから満タンで300km以上走れる。安価でありながら、バイクを操作して乗る悦びがあり、街ユース、ツーリングユースをきっちりこなす絶妙な設定である。
スペック
HONDA CBR250R
全長/全幅/全高 | 2035mm/720mm/1125mm |
---|---|
ホイールベース | 1370mm |
シート高 | 780mm |
装備重量 | 161kg |
タイヤ | (F)110/70-17 (R)140/70-17 |
タンク容量 | 13L |
排気量 | 249cc |
エンジン | 水冷4ストロークDOHC4バルブ |
最高出力 | 27PS/8500rpm |
最大トルク | 2.3kgfm/7000rpm |
価格 | ¥449,400 |
ライター
濱矢文夫
フリーランス・ライター。16歳でオートバイに乗り始め、原付を含め数々のオートバイを乗る。旧車、絶版車、新車問わず豊富な知識を持ち、独特の表現と視点で現在、数多くの二輪専門誌で活躍中。著書に『マニアックバイクコレクション上の巻/下の巻』がある。