スズキ GSX1300R ハヤブサ ~最新バイクインプレッション~

スズキ GSX1300R ハヤブサ ~最新バイクインプレッション~

createMasayuki Miyazaki
camera_altKen Takayanagi
check_circleJunichi Yasumuro

 1999年にデビューしてからずっと輸出専用モデル、つまり逆輸入車としてのみ販売されてきたスズキ不動の一番バッター・ハヤブサがついに国内販売されることになった。市販車世界最速クラスの古参でありながら、長いモデルライフの中でじつはたった一度しかモデルチェンジをしていない人気モデルだ。そのモデルチェンジは2008年に行われたが、トピックをかいつまめば、わずか41ccの排気量アップとモード切替システムの追加、そして外装の小変更だけである。初代の高い商品性をないがしろにしない、キープコンセプトの2代目というわけだ。

 メーカーみずから"やりたいこと""挑戦したいこと"の頂点(理想形)がフラッグシップモデルにあるとすれば、スズキは10年以上、そのポジションをハヤブサに与えている。ホンダの場合はゴールドウイングで、ヤマハはVMAX、カワサキはバルカン? ZRX1200? 一概に言うのはむずかしいけれど、それぞれメーカーのヒエラルキーのトップに納まるこれらのバイクを並べてみると、なんとなくメーカーの特色が見えてくるもの......というは強弁だろうか。とにもかくにも、この世に二つとないダイナミックなスタイリングと高速巡航性能こそが、世界中で人気を博している理由の源であることに異論はないだろう。

 しかしそんなハヤブサの実車を目の前にし、少しだけ距離を置いて考えてみる。著者のココロに湧き上がってくるのは、「世界最速マシンを乗りこなすオレ」という前向きな自意識と、「時速300kmが出るバイクはどこで乗ったら楽しいんだ?」という後ろ向きの疑念。なにをしゃっちょこばったことをと言わないでほしい。300km/h OKのスーパーなポテンシャルに(国内仕様だから180km/hだけど)、精神的にのみ満足できるライダーはいいけれど、現実的な用途と意義を見いだせないフツーのライダーにとっては、300km/h"以外"の性能のほうがずっと大切になってくる。たとえばロングツーリング時の巡航性能が高いとか、タンデムの快適さだとかだ。そうそう、ABSがやっと装着されたことは本当にありがたい。ハヤブサ唯一と言っていいセールス上のウィークポイントだった。

 またがってすぐに分かるのは、外見のアグレッシブな印象に反して自由度の高いライディングポジションだ。上半身の前傾も適度で、腕や腰への負担が少ない。新型で少しだけ高速志向が強まったとはいえ、中庸とも中途半端ともいえるこのライポジこそが初代から受け継がれているハヤブサの美点である。こういう間口の広さは、多くのスズキのラインナップにも感じることができる。ひとえにスズキには、ビギナーを無視しないユーザーフレンドリーなモデルが多い。

 ヒュルヒュルとものすごく静かなアイドリングから慎重にクラッチミートさせて発進。小さな交差点をひとつ曲がってすぐに直感できるのは、素性としてのジェントルさだ。意外に従順、これなら乗れるかも......とライダーを安心させてくれる。あれだけ大きく感じたボディがすこしだけコンパクトに感じる瞬間だ。6速なんていらないんじゃないかと思わせるほど、太いトルクを利してどのギアからでもぐいぐいと加速していくエンジンは、高回転域に踏みこまないかぎり過度に自己主張もしない。大排気量車のラクチンさここに極まれり、だ。

 しかし、仏の顔も三度まで? どのギアでもいい、スロットルを大きく開けてみる。するとどうだろう。そのふてぶてしいエアロフォルムに見合った怒涛の加速に、ライダーは息を止め、目を見開く。慣れないうちは恐怖がともなうし、高速道路ではタンクの上にしっかり突っ伏さないとウインドプロテクションも得られない。そういった意味でのクルーザー的な快適さは備えておらず、ハヤブサがあくまでスーパースポーツの延長線上にあることを思い知る。言葉にするのも野暮なほど、直進安定性は抜群だった。

 でもタイトなワインディングでは、その全方位的なキャラクターが足枷になってスーパースポーツやストリートファイターなどが持つ俊敏なハンドリングに遠く及ばない。得意ではないが不得意でもないし、鈍重でもなければ軽快でもない。でも高速弾丸号ハヤブサはこれでいいと思う。コーナーの出口さえ遠くに見えれば、190mmトレッドのリアタイヤの接地面を最大使い切って、最高197馬力の強烈な加速で脱出できる。

 1日フルに試乗して、ひとつだけ分かったことがある。とかくジャーナリストは目の前の新型車を既存のステレオタイプに当て嵌めようとするが、ハヤブサはそこに納まりにくい。ハヤブサはどこを切ってもハヤブサらしいと言ったら、やっぱり逃げ口上に聞こえるだろうか?

メーター

スズキ GSX1300R ハヤブサ ~最新バイクインプレッション~(1)

デジタル式が多数派の昨今にあって、あくまでアナログ式であることを貫く意匠にスズキのこだわりを感じるフルスケールメーター。額面いっぱいの300km/hを振り切ることが"性能的"には可能だが、実際的にはリミッターの効く180km/hまで。

前輪まわり

スズキ GSX1300R ハヤブサ ~最新バイクインプレッション~(2)

フロントブレーキは、旧型の2分割ボディからモノブロックタイプのブレンボ製ラジアルマウントキャリパーに変更された。あわせてピストン径も30/32mmから32/32mmに拡大し、コントロール性の向上を図っている。ABSもやっと装備。

マフラー

スズキ GSX1300R ハヤブサ ~最新バイクインプレッション~(3)

欧州仕様と同スペックを擁するエンジンの高いポテンシャルを妨げないために、また、日本国内の厳しい認証基準に適合させるために、マフラー開発には細心の注意が払われた。2本出し、トライオーバルのデザインは旧型と同様。

足つき

スズキ GSX1300R ハヤブサ ~最新バイクインプレッション~(4)

モデルの身長は172cm。余裕たっぷりとはいかないまでも、十分に良好な足着きを確保している。ファットなタイヤサイズと260kgを超える重量のせいで取りまわしはラクではない。ちなみに国内二輪車ではじめてETC車載器を標準装着。

走り

スズキ GSX1300R ハヤブサ ~最新バイクインプレッション~(5)

スペックほど過激ではない、拍子抜けするほどコントローラブルな低中速のライディングフィール。「これなら乗りこなせるかも」と思ってしまえばハヤブサ購入まであと500メートル?ハイウェイを多用したロングツーリングが主戦場か。

スペック

SUZUKI HAYABUSA

スズキ GSX1300R ハヤブサ ~最新バイクインプレッション~(6)
全長/全幅/全高2190mm/735mm/1165mm
ホイールベース1480mm
シート高805mm
装備重量266kg
タイヤ(F)120/70-17 (R)190/50-17
タンク容量21L
排気量1339cc
エンジン水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ
最高出力197PS/9500rpm
最大トルク15.8kgfm/7200rpm
価格¥1,609,200

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